2026.06.10
eラーニング制作会社はAIをどう使っているのか — 受託現場の2026年リアル
①制作工程におけるAI活用度

「AIを使えば、eラーニングなど教材のカリキュラムから編集まですべてできる」。そう思われることはないでしょうか?
これはある種の正しさもありつつ、さまざまな危険と価値喪失の可能性をはらんでいます。
この記事では、eラーニング制作会社(プロフェッショナル)としての視点で、私たちの制作工程におけるAI活用の実情をついてご紹介していきます。
1. 「AIで全部できるんじゃない?」という質問から始まった
2025-2026年に急増した発注者からの問い合わせパターン
多くのお客様とプロジェクトを進める中で、特にこの一年くらいは次のような声をよく聞きます(2026/6現在)。
- ①AIを使えばもっと効率化、コストダウンできる?
- ②とりあえず構成案までAIで作ったからあとの工程をうまくやってほしい。
- ③ChatGPTでシナリオを作成したからこれを動画化してほしい。
実際に、商談の中でAI活用について話をした記録は、以下のように2倍を超えるペースで増加しています。
2025年14件 ➡ 2026年(5月まで)16件
なぜこの疑問が出るのか — 生成AIツールの進化スピード
このように問い合わせが増えている背景には、AIの大幅な進化が影響していると考えられます。2023年にChatGPTが登場し、翌2024年に画像・動画生成AI(Sora, Veo等)、2025年以降はAI音声(ElevenLabs等)やAIアバター(HeyGen, Vyond等)などの進化も続き、精度もグングンと向上しています。
これだけAIがそろっていれば、「あとは人がハンドリングさえすればeラーニングを作れる」と感じるのは自然なことです。実際、短い動画や簡単なクイズなどであればAIに任せて作ることができます。
ただし、AIに任せるべきことと、人が中心となって行うべきことを切り分けておかないと、教育の目的である「学習効果」を発揮することは難しいのが2026年時点の現状です。
次の章では更に一歩踏み込んで、制作工程のなかで、どこでAIを活用するべきかを考えていきましょう。
2. eラーニング制作10工程のAI活用マップ
eラーニング制作の工程を10に分けてみました(プロジェクトにより工程には差異がありますので一例です)。それぞれの工程におけるAI利用の親和性を見ていきましょう。
■eラーニング制作の10工程
- ①ニーズ分析・ターゲット設定
- ②学習目標設計
- ③コンテンツ構成設計
- ④シナリオ・台本執筆
- ⑤ビジュアル・図解制作
- ⑥音声・ナレーション制作
- ⑦動画制作・編集
- ⑧設問・テスト設計
- ⑨LMS実装・配信
- ⑩効果測定・改善
AIとの協働に適した3つの工程
まず、AIをもっとも活用できる工程ですが、それでも効果の高い教育を作成するためには人手を大きく掛けているのが現状です。

⑧設問・テスト設計AI適合度60
- ・②学習目標の達成を確認するためのクイズ作成
- ・合わせて③④が②と紐づいているかの確認を含む
設問の生成は精度は上がっていますが、ひっかけ問題のようなものが生まれたりします。また、作成者がポイントとしている箇所をうまく抽出できないことがあるなど、AIの使い方、指示の仕方次第で生成結果の精度は大き変わってきます。
⑤ビジュアル・図解制作AI適合度60
- ・ビジュアル表現(アニメーションを含む)やインタラクションの検討(③④に内包される場合あり)の検討および作成
コンテンツの視覚化やデザイン性向上を目的としたイラストや図解作成はAIが得意とする作業です。ただし、画像等の生成AIが適切に本来必要なイラスト等を生成してくれるとは限りません。複数回生成を試し、方向性を指示した上で、生成された画像等が他社の権利を侵害するような状態でないことを確認して使用します。
⑥音声・ナレーション制作AI適合度80
音声もAIが得意とする分野です。感情を込めた表現もできるようになっています。ただし、再現性の面で課題があり、生成するたびに声色が変わってしまったり、読み上げ速度がズレてしまったりします。従来の合成音声ソフトを使用したほうが運用コストなどの面で効果的な場合があります。ただし、プロナレーターの表現力には敵いませんので、目的に応じて使用します。
AI+人のハイブリッドが最適な3つの工程
続いてAI活用で効率化を項目を見ていきます。こちらは主に情報整理などの目的でAIの活用が期待できる項目です。

①課題の定義(ニーズ・ターゲット分析)AI適合度40
- A.経営・組織課題、トップダウンの教育目的の把握
- B.現場課題の抽出、現場ヒアリングやアンケートによる課題抽出・分析(ボトムアップの目的理解)
- C.A-Bの結果をもとにした教育テーマとターゲットの明確化(受講者の現状、受講環境の整理)
ここは教材の大前提となる部分です。一般情報を伝える教育であればAIにある程度整理させることはできますが、自社の/独自の情報を含めたい場合は、現場の暗黙知をヒアリングし、相手の反応を見ながら課題を洗い出すこと(対話や空気を読む力)や、自社/業界の知識が前提として必要になる場合が多いです。AIが使えるのは、議事録の整理や課題案の整理など限定的です。
④シナリオ・台本執筆(③に内包される場合あり)AI適合度30
- ・①~③の結果に基づき、Excel、PowerPoint、Wordなどを使用したテキストやスクリプトの執筆(絵コンテ)
①~③の情報がそろえば、AIにたたき台を生成させることができます。ただし、AIの生成したシナリオや台本をそのまま使用することは推奨しません。弊社では、書いた文章の校正や、別の言い回しなど表現案の生成などにAIを活用しています。多くのAIは公開情報をもとに執筆することが多く、自社の情報を学習させていたとしても、「人」に伝わる文章になっているかをレビューする必要があります。また生成された情報が正しいかを確認する作業に工数が掛かります。
⑩効果測定・改善AI適合度40
アンケートやクイズの結果を高速で分析することができますが、受講者の状況や置かれている環境を十分に理解したうえでの分析ではありません。AIは分析の補助ツールとして活用しましょう。制作工程を効率化できた箇所があれば、積極的にこの部分に人手を割いて学習効果を確認、次に活かしていくことが求められています。
人手が前提の4つの工程と、その構造的理由
②学習目標設計AI適合度10
①の結果に基づく対応として、
- A.現状と理想(ゴール)の設定
- B.個別講座毎の学習目標設定
「学習目標」は学習者に伝えるだけでなく、この後の工程でAIと人、また関係メンバーとの前提共有に非常に有効なツールです。ニーズやターゲットなどの基本情報をAIに伝えることで目標案を簡単に整理することができますが、ID(インストラクショナルデザイン)を習得している場合は、人手で考える方がより効果的な目標を設定することができます。教材制作の経験が無い方にとっては大きな助けとなるでしょう。
③コンテンツ構成設計AI適合度25
- ・教材の難易度設定
- ・②に基づく個別講座の目次構成の設計(タイトル案、伝えるべき情報の概要を含む)
- ・元ネタとなる情報、資料の調査・収集
①~③は企画設計の工程です。ここに現場の実際の課題と乖離があると、コンテンツ自体の価値が失われます。AIもID(インストラクショナルデザイン)の基礎は理解しているため、AIによる情報整理、構成案生成などの補助はあって良いですが、どうすれば価値のある教育になるのか、必ず人が中心となって検討するべき箇所となります。
⑦動画制作・編集AI適合度20
編集作業もAIに任せることは難しいです。全体の流れやUI/UXの観点を意識してコンテンツとして組み上げる必要があります。映像を生成した場合も、短尺のものをつなぎ合わせたり、音声を別で作るなど様々な編集作業が必要です。Articualate Riseなど一部の編集ソフトは、AIとの親和性が高く、自動でコンテンツを組み上げる技術も発達しています。
⑨LMS実装・配信AI適合度0
これまでの工程で作成したコンテンツを、LMS(学習管理システム)へ登録し配信を開始する作業は、AIエージェントなどで自動化できるかもしれませんが、人手の方がセキュリティ面や効率性の面でメリットがでることが多いです。
3. まとめ
AI適合度の平均は、37.5となっています。
これはAIを活用することで、「効率化」できていると見ることもできますが、実際にはAIと対話しながら進めること、またAIの生成結果をレビューすることなどに工数がかかっているため、「効率化」よりは「品質向上」に繋げているのが多くのプロジェクトにおける現状です。
ただし、当然ながら「コスト」はお客様にとってご依頼いただくうえで重要なポイントとなるため、コスト削減を目的としたより積極的なAI活用を行うプロジェクトもあります。
この記事では、eラーニング制作会社における制作工程のAI適合度合を見ていきましたが、次のブログでは別の視点(「技能継承」、「コンプライアンス」、「階層教育」など教育テーマごと)で、AIとの適合度合いがどうなるか、ご紹介していきます。
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