2020.10.26
技術研修の動画教材化でよくある問題
工事で必要な技能などのスキルは、実技を伴う講習やOJT、現場での経験によって培われ、磨かれていくのが一般的です。十分な技能を身に着けたベテランの方ともなれば、実際の現場はもとより、後継の指導にも欠かせない存在です。
とあるお客様先では、こういった技能に関しては、知識を充分に備えていても、実際に手を動かせるかどうかとは別問題、と伺ったことがあります。このことからも、技術・技能は、文字どおり、「身に着ける」ことが重要といえるのではないでしょうか。
一方、昨今の人手不足や、ベテラン層として企業を支えてきた年代が一斉に定年を迎える・迎えたことによって、技術の継承を、喫緊の課題と捉えている企業様も少なくありません。
そこで、ここでは、これまで集合研修で実施されてきた、実技を伴う技術研修を動画に残し、技術の継承の一助とする際のポイントについてご説明いたします。
技術研修の動画教材化でよくある問題
弊社のこれまでの開発経験や、お客様からお聞きしてきたお悩みから総合すると、教材化を阻む壁として、多く挙げられているものは、以下のとおりです。
- ・ノウハウが属人化していて資料にまとめられていない
- ・技術者が模範的な方法で作業していない可能性がある
- ・専門性が高く、一般化・平易化が困難
ひとつずつ見ていきましょう。
ノウハウが属人化していて資料にまとめられていない
ベテラン技術者のノウハウは、長年の経験によって培われるものだけに、所謂教本や解説資料が体系的に揃っていることはほとんどないようです。しかし教材を作成するには、技術者の中だけにある、それらの知識や技能の情報を取り出してまとめ、教材として仕立てる必要があります。
技術者が模範的な方法で作業していない可能性がある
ベテラン技術者であるがゆえに、長年の慣れにより、基本に忠実とは言えない動作になってしまっている可能性があります。ベテランだからこそ、ある程度省略行動などがあっても、結果としてうまくできてしまうためです。
しかし、動画では、ベテラン技術者が被写体となり、模範的、かつ基本に忠実な作業を見せなければなりません。したがって、その動作が本当に正しいかどうかのチェックがしきれないと、教材として不十分なものができてしまうという問題が考えられます。
専門性が高く、一般化・平易化が困難
工事においては、専門用語やさまざまな工具、素材が多く使われます。また、作業者の挙動が複雑でわかりにくいこともあります。それらを、動画の閲覧者にできるだけ正しく伝達しなければなりません。
集合研修であれば、都度質問を挟んだり、挙動については手元に近づいたり、異なる角度から見たりすることも可能です。しかし、動画の場合は、撮影時や編集時に気を付けていなければ、閲覧者からは理解しにくいままで終えてしまうこともあります。
問題解決のための対策
先に挙げた3つの「よくある問題」では、いずれも、ベテラン技術者の高度な専門性と、学習者が理解できるレベルの間にある「溝」が問題になっています。
解決のポイントは、その溝を誰が埋めるか、どうやって乗り越えるか、という点です。
教材の情報源でもある、ベテラン技術者が教材の企画やシナリオの作成までを担当できれば大変理想的です。しかし、この案は現実的とは言えません。ベテラン技術者は教材の専門家でも、講義の専門家でもないからです。また、教材化にともなう負荷が大きくなれば、本来の業務を圧迫しかねません。
多くの企業様では、この部分がネックとなり教材化が進まない、とお悩みになっていることがあるようです。
この問題を解決しながら、「教材として活用できる動画」を完成させるために必要な対策は以下のとおりです。
- ・必要な情報を引き出す
- ・情報を整理し再構築する
- ・漏れなく撮影し、適切に編集する
順にご説明いたします。
必要な情報を引き出す
必要な情報は、被写体となるベテラン技術者の中にあります。教材に取り込むには、それを引き出す必要があります。
ここでできる対応は2点です。
- ・作業のリハーサルを実施
- ・技術者への、詳細なヒアリングを実施
リハーサルは、技術者による手順の確認と、撮影の段取り確認に有効です。
どのような動作を、どこで行うのかを予め確認することで、工具や資材を過不足なく準備したり、カメラのアングルに目星をつけたりすることができます。
ぶっつけ本番での撮影には、段取りを悪くしたり、NGテイクを多く出したりといった弊害が隠れています。
技術者にヒアリングすべき内容は、以下のような事項です。
- ・作業の目的やゴール
- ・作業手順
- ・事前準備(工具・資材・装備)
- ・作業のポイント、注意点
予めヒアリングしてからリハーサルに臨み、リハーサルでも、疑問や不明点をその場で確認していきます。
リハーサル後には、「シナリオ」という形で作業手順やできあがりイメージを整理しますが、シナリオを作るために必要な情報をヒアリングで集めるイメージです。
工具の使い方や安全のポイントなどは、残さず記録しておき、事後の動画編集時に反映させます。
技術者とのコミュニケーションを密に取ることで、さまざまな利点があります。
技術者には当たり前のことすぎて、尋ねてもすぐには出てこないような重要情報など、教材のポイントとなるような情報を引き出すことができます。
技術者の頭の中だけにある情報も、会話などを通すことで具体的な言葉になります。その過程で、見落としていたり気づいていなかったポイントや、基本から外れていることに気づいたりできます。
情報を整理し再構築する
リハーサルやヒアリングで得た情報を分類・整理し、シナリオを作成します。シナリオは、ここで作っておしまいではなく、動画完成までの工程全体を通してブラッシュアップしていきます。
シナリオには、以下の内容を含めます。撮影前の段階では、すべて暫定・想定で構いません。
- ・画:どのような画面にするか(絵コンテ))
- ・キャプション(注意事項・用語・補足説明))
- ・ナレーション)
キャプションとは、画面上に表示させる説明文や名称などです。
どの情報をどこに仕分けるかを考えながら作成するため、情報の不足や矛盾などに気づく効果もあります。この時点で挙げられた不明点、情報の補足情報、是正への対応は、できれば事前に、時間がない場合は撮影時に行います。
シナリオ(例)
漏れなく撮影し、適切に編集する
いよいよ撮影です。撮影に必要なスタッフと役割を挙げてみます。スタッフが豊富であれば、撮影はある程度スムーズに進みますが、予算や各自のスケジュール状況などによって調整すると良いでしょう。
また、ディレクターとカメラマンを兼任したり、カメラマンアシスタントがアシスタントディレクターも兼ねるなど、複数の役割をひとりで担うことは珍しくありません。
名称 | 役割 | 必要度 |
---|---|---|
ディレクター | 撮影の総責任者。シナリオを確認しながら撮影内容、カメラアングル含めた動画の品質を確認し、OK/NGの判断をする | 必須 |
カメラマン | 撮影を行う。カメラの台数分の人数が必要 | 必須 |
カメラアシスタント | カメラの移動を伴う撮影をする際は、ケーブルの引き回しなどを行う。レンズやバッテリー交換など雑務も請け負う | |
音声 | その場で音声(ナレーションやインタビュー音声)を収録する場合に必要。音量や音質のチェック、マイクの管理を行う | 収録時は必須 |
照明 | 照明技術と照明機器の管理を担う | |
アシスタントディレクター | 撮影全般の雑務を請け負う |
シナリオに従って撮影を行います。その際、本当に模範的で基本に忠実な動作になっているか、ヒアリングした内容と合っているか、などを確認しながら進めます。
撮影時も適宜ヒアリングを行い、気付いたことはその場で確認したり、撮影漏れなどがないように留意します。
また、動作などが複雑だったり難易度が高いと感じることがあれば、別アングルで何度か撮影をしたり、詳細を見せるための動作を別途撮影しておくなど、必要なシーンを漏らさず撮影しておきます。
撮影後は、シナリオを再度整理します。
撮影時に収集した情報を反映させ、動画教材の完成形を想定した絵コンテを作成します。キャプション(画面上に表示させる説明文や名称など)、ナレーションも考案します。シナリオは、技術者とも共有し、言葉を含め、表現が正しいかを確認したり、不足情報などを補足したりします。
撮影した後は、動画の編集を行います。シナリオをベースに粗編集、チェック、ナレーション収録、といったフローを進め、動画を完成させます。
編集した動画も技術者と共有し、正しい内容になっているかを確認しながら進めます。
執筆者:
佐瀬 志津子
教育ソリューション部 制作グループ ライター
ヒューマンサイエンス入社後、テクニカルライターとして、
製品マニュアルや業務マニュアルの設計・ライティングを経験。
その後、eラーニング教材の原稿の執筆と制作ディレクションに従事。
これまで約200本に及ぶ教材の制作に携わる。
お問合せ先:
電話番号 : 03-5321-3111
hsweb_inquiry@science.co.jp
失敗しない!eラーニング動画教材の作り方
~技術研修動画編~
eラーニング動画教材での技術研修動画の特徴や作成方法、そのポイントを解説します。動画制作に共通するポイントも掲載しています。
【内容】
技術研修動画 制作のフロー
1. 前準備(①シナリオの作成、②撮影の手配、③香盤表の作成)
2. 撮影当日(①撮影前の準備、②撮影中の作業)
3. 編集作業(①編集、②エンコード)
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