2022.11.15
SNSでのコンプライアンス違反を防ぐには?
コンプライアンスの徹底が企業に求められる中、大きな課題となっているのがSNSに関するトラブルです。スマートフォンを持つのが当たり前の現代において、従業員やその関係者による何気ない投稿が炎上し、企業イメージの失墜や経営へのダメージなど、さまざまな損害を招くケースは決して他人事ではありません。そこで今回は、企業にとってのコンプライアンスの重要性を再確認するとともに、SNSが及ぼすリスクや、リスク回避のための対策について詳しく解説していきます。
1. なぜコンプライアンスが重要なのか
まずはコンプライアンスの定義を確認しましょう。コンプライアンスは「法令遵守」と訳されますが、企業におけるコンプライアンスは、独占禁止法や不正競争防止法などの法律を表す「法令」の遵守のほかにも、企業が独自に定める「就業規則」や倫理的・道徳的な観点からみた「社会通念上の常識やルール」を守り、健全な企業活動を行うという意味も含まれます。
●企業のコンプライアンスが重要視されている理由とは
昨今、さまざまな場面において企業のコンプライアンスが重要視されていますが、その背景の一つとして挙げられるのが、過去に相次いで起きた企業による不祥事です。1990年代から2000年代にかけて、自動車メーカーのリコール隠しや大手食品会社での食品偽装問題、複数企業の粉飾決算など、多くの不祥事が発覚しました。企業による不祥事は、最終的には消費者にも実害をもたらすため、企業のブランド力は失墜し、存続も危ぶまれる事態にもなり得ます。さらに、コンプライアンス違反を犯した企業は、優秀な社員が流出したり、採用ができなくなる可能性も出てきます。
一方、コンプライアンスをしっかり守って行動している企業は、企業価値が高まり、顧客や取引先からの信頼獲得や優秀な社員の確保、業績の向上が期待できます。企業競争が加速している現代において、製品やサービスの質はもちろんのこと、コンプライアンスの確立・遵守も企業の未来を左右する一要素であり、重要視されていることがわかります。
●コンプライアンス違反の例
企業におけるコンプライアンス違反はさまざまなケースがあります。具体的にどのような行為なのか、以下にまとめました。
‹企業のコンプライアンス違反の例›
・営業情報や個人情報などの業務用データの持ち出し
・個人情報の漏洩
・内部情報の漏洩、インサイダー取引
・SNS上の不適切な発言や投稿
・パワハラやセクハラなどのハラスメント行為
・不適切な時間外労働(その結果として、従業員の精神疾患や過労死)
・粉飾決算、脱税、情報の改ざん
・業法違反や景品表示法違反などの法令違反
・給料賃金の未払いや不払い
・衛生管理ミス、産地や性能の偽装
・雇用差別
・社内備品や設備などの不正利用
・著作権の侵害
このようなコンプライアンス違反を未然に防ぎ、コンプライアンスの徹底を図るために、多くの企業では内部統制システムの整備・構築を行っています。しかし、社内での不正をチェックすることはできても、従業員およびその関係者の個人的なSNSまで監視することはほぼ不可能です。そのため、SNSに関するコンプライアンス対策は、企業にとっての大きな課題といえます。
2. SNSが持つ危険性と炎上のメカニズム
SNSとは「Social Networking Service(ソーシャルネットワーキングサービス)」を略した言葉で、インターネット上で社会的な交流を行うことができるサービスのことをいいます。スマートフォンの普及によってSNSの利用者は爆発的に増え、誰もが気軽に情報を発信できるようになりました。しかし、その便利さの裏でSNSは多くの危険性も孕んでいます。
‹SNSが持つ危険性›
・不意の失言や不確かな情報も発信される
・発信した情報がすぐに拡散される
・発信した情報がインターネット上に残る
・プライバシーを特定される恐れがある
・機密情報漏洩やアカウントが乗っ取られる可能性がある
このようなSNSの危険性に対する認識が低く、社会通念や常識に対する配慮が乏しい発言を、従業員がSNSを通じて発信してしまったらどうでしょうか。その企業は、SNSをきっかけに致命的なトラブルが発覚し、多くの人たちから批判や誹謗中傷を受ける事態になり得ます。端的に言えば、SNSを通じて、「炎上のリスク」が起こる可能性があるということです。炎上しやすい投稿内容は、以下のようなものが挙げられます。
‹SNSで炎上しやすい投稿内容›
・偏見や思い込みからの不意の失言
・社会通念に反した非常識な行い
・従業員や企業関係者による暴露(内部告発)
・自分や他人の個人情報の漏えい
・差別的な表現
・政治や宗教、ジェンダーなどのセンシティブな話題に触れる
そのほかにも、従業員が個人アカウントと間違って企業アカウントで投稿してしまったケース(いわゆる“誤爆”と呼ばれるもの) や、第三者によるなりすまし、顧客からのクレームなども炎上が起こる原因となります。では、最初の投稿からどのような展開を経て炎上が発生するのでしょうか。一連の流れを見てみましょう。
SNSの特性上、炎上の流れのスピードはとても速く、投稿から数日〜1週間ほどで最初の炎上が発生することもあります。また、その間に企業が炎上に気づくのが遅れる場合も多く、トラブルの事実調査が追いつかないという事態も起こります。このような初動の遅れや誤った対応によっては、ユーザーの反応を逆なですることにもつながり、さらなる“炎上の燃料の投下”を招くことにもなりかねません。
>>企業で取り組むコンプライアンス対策<事例編2>
3. SNSに関連したコンプライアンス違反の事例
ここからは、過去に実際に起きたSNS関連の企業の炎上事例を見ていきましょう。事例は炎上の原因別にまとめました。
●情報漏洩によって炎上を招いたケース
(CASE.1)来客の個人情報を投稿
ある金融機関の従業員の家族が、「金融機関に来客した有名人の住所を教えてもらった」とSNSに投稿し、炎上。金融機関名も特定され、この金融機関は公式サイトやSNS上で謝罪文を掲載するなどの対応に追われました。また、この炎上をきっかけに株価が急落し、時価総額で数百億円の損失を負いました。
(CASE.2)社外秘の情報を投稿
自動車メーカーの工場に勤務する従業員が、公に未発表の自動車を工場内で発見し、撮影した画像をSNSに投稿。その結果、炎上を引き起こしました。従業員によって社外秘の情報が漏洩したため、自動車メーカーは管理体制の指摘などさまざまなバッシングを受け、ブランドイメージもダウンしました。
●配慮に欠けた投稿によって炎上を招いたケース
(CASE.1)原爆投下日に無配慮なツイート
某テーマパークのTwitterの公式アカウントが「なんでもない日おめでとう」と投稿。これは映画『不思議の国のアリス』の物語内に登場する劇中歌の一文を日本語訳したものでしたが、投稿された日が長崎市に原爆が投下された8月9日だったことで批判が殺到。テーマパーク側は該当ツイートの削除と、タイミングを考慮せずに不適切な発言をしたことに対する謝罪を行いました。
(CASE.2)“社畜”をネタにした投稿内容に批判
不動産情報サイトの公式Twitterが“社畜”をネタにしたツイートを投稿して炎上しました。「社畜さんいわく 残業のことを『二次会』って言うんだって♪ そう言うとなんかすごく楽しそうな感じがするねっ(一部抜粋)」という辛辣な投稿内容に、多くのユーザーから非難の声が上がり炎上を招きました。
●不適切な投稿によって炎上を招いたケース
(CASE.1)従業員による不適切動画が拡散
全国展開する飲食店チェーンの従業員が、故意に食品をゴミ箱に捨て、さらにそれを再度調理するなどの不適切行為を撮影した動画をSNSに投稿。動画はまたたく間に拡散され炎上を起こしました。その結果、運営会社は時価総額で数十億円の損失を被る事態となりました。
(CASE.2)ユーザーの指摘から炎上に発展
美容関連企業が提供したサプリメントのSNSプロモーション企画において、その表現が薬事法に抵触しているとの指摘の声が上がりました。そのほかにも薬事法や景品表示法に違反していると判断されてもおかしくない複数の投稿が発見されたため、炎上に発展。その後、美容関連企業は謝罪文と今後の対策に関する提言を表明しました。
(CASE.3)不適切な投稿内容に批判が集中
大手ディスカウントショップが、公式のSNS上に「#みんなは●●(店名)で何盗んだことある?」という一文をハッシュタグをつけて投稿し、物議を醸しました。ほかのハッシュタグに「#これは大喜利です」や「#万引きは犯罪です」と付けられていたため、当投稿は大喜利を募集するネタであると推測することはできたものの、投稿が不適切だという理由で批判を集める結果となりました。
●内部告発や外部からのクレームによって炎上を招いたケース
(CASE.1)従業員の家族が投稿した内部告発
某企業に務める従業員の家族が、従業員が漏らした企業への不満を聞き、その内容をSNSに投稿。内容を見た多くのユーザーから共感が集まり、また企業側にはユーザーからの非難が殺到し、対応に追われることになりました。その後、企業イメージは失墜し、時価総額で数百億円に上る損失を負いました。
(CASE.2)異物混入騒ぎで休業に発展
異物(虫)が混入されたカップ焼きそばを購入した消費者のツイートによって問題が発覚。商品を製造した食品メーカーの担当者による初動対応の不手際などもあり炎上する事態となりました。食品メーカーは全商品の生産と販売の休止を発表した後、休業を余儀なくされました。
(CASE.3)不正なキャンペーン企画に指摘
製菓メーカーが行ったSNSを利用したキャンペーン企画において、フォロワー数が多いアカウントしか当選していないというユーザーからの指摘が拡散され、炎上。調査や謝罪をした上で、過去に実施したキャンペーンも含めて、応募者に対して再抽選を行うことが発表されました。
●なりすまし、または“誤爆”によって炎上を招いたケース
(CASE.1)
旅行会社の公式Twitterアカウントが、某アーティストに対して「ぶさいく」というコメントを送り炎上しました。アーティストへの同情の声が集まるとともに、企業には非難が続出し炎上に発展。本件に関して旅行会社は原因不明と発表していますが、なりすましの可能性や担当者が“誤爆”したのではないかと考えられています。
4. SNSでの炎上を防ぎ、コンプライアンスを守るために
ご紹介した事例からもわかるように、一人の従業員による「つい、うっかり」の発言や行動が、SNSによって拡散され、取り返しのつかない事態に発展することがたびたび起こっています。企業は、個人の問題=企業の問題として捉える視点が重要であり、個人レベルのSNSの利用方法も含めたコンプライアンスの徹底が求められています。
それでは、SNSでの炎上を防ぐためにどのような対策を講じるべきなのか、具体的に解説していきます。
‹SNSでの炎上を防ぐための対策›
●SNSガイドラインやポリシーを策定する
社内におけるSNSガイドラインやポリシーを策定し、禁止事項や留意すべき点を明示することで、SNSの利用に対する従業員の意識向上が期待できます。SNSに関するガイドラインは「ソーシャルメディアポリシー」と呼ばれ、その内容を公開する企業も増加しています。
●SNSの投稿を監視する
SNS投稿を監視する体制を整備し、自社に関する不適切な投稿をいち早くチェックすることも炎上を防ぐための有益な方法です。監視業務が煩雑であれば、外部の監視サービスを利用するのも一手です。
●定期的にSNSリスク研修を実施する
SNSに潜む危険性や、炎上した際に企業側が受ける損失など、個人利用ではなく「企業視点のSNSリスク」を全従業員に啓蒙することが重要です。
このほかにも、個人を特定する手がかりになる情報を投稿しない、公開範囲を設定する、投稿ボタンを押す前に「全世界に発信しても良い情報なのか」をもう一度自分自身に問うなど、至って基本的な行動が炎上の回避につながります。
しかし、ある程度炎上を防ぐことができても、リスクをゼロにはできません。万が一炎上してしまった場合、初動対応のミスがさらなる火種を生むことが予想されるので、対処方法を事前に決めて、冷静に行動することがポイントです。
対処方法の例としては、以下のことが良いとされているようです。
・事実確認
・方針を定める(対応に一貫性を持たせる)
・企業側に非がある場合は真摯に謝罪する
SNSでの炎上を防ぎ、コンプライアンスを遵守するためには、いずれも「定期的な社内研修」が重要だといえます。特に、個人での利用シーンが多いSNSは、従業員一人ひとりがSNSリスクに対する意識を強化し、企業が掲げるコンプライアンスを十分に理解する必要があります。
そこでご提案したいのが、eラーニング教材による学習です。モバイル端末を活用すれば、時間や場所に囚われることなく自分のペースで学習でき、時間を有効に使えます。また、日進月歩で情報がアップデートされるSNSなどIT分野においては、最新情報を常に把握しておくことが大切です。その点eラーニングは紙の教材に比べて更新が容易で、鮮度の高い情報を得ることができます。
>>企業で取り組むコンプライアンス対策<事例編2>
ヒューマンサイエンスのeラーニング教材「企業で取り組む コンプライアンス対策〈基礎知識編〉」では、コンプライアンス全般の基礎知識をカバー。学習を通してコンプライアンスの重要性を理解し、日頃から意識した行動をとれるようにサポートします。さらに、より具体的なシーンで実践知識を学べる「企業で取り組む コンプライアンス対策〈実践編〉」と併せて学習すれば、より深い理解定着が期待できます。
弊社の教材では、定期的に内容を見直し、アップデートしたり、新たなコースを追加したりしています。年内には、SNS対策を含めた新コースが追加され、より広く学んでいただけるようになります。また、お客様のご要望により、各社様の実情に、よりマッチした内容にカスタマイズすることも可能です。
情報化が急速に進展していく現代。その流れに合わせるように、SNS対策をはじめとするコンプライアンスに関わる法律やモラルは、今後もアップデートされていくことが予想されます。従業員の意識を高め、思わぬトラブルを避けるためにも、eラーニングで定期的な社内研修を行い、最新の知識を修得することをお勧めします。
>>関連:情報セキュリティ基礎コース–パソコンやスマートフォンの情報セキュリティ
執筆者:
佐瀬 志津子
教育ソリューション部 制作グループ ライター
ヒューマンサイエンス入社後、テクニカルライターとして、
製品マニュアルや業務マニュアルの設計・ライティングを経験。
その後、eラーニング教材の原稿の執筆と制作ディレクションに従事。
これまで約200本に及ぶ教材の制作に携わる。
お問合せ先:
電話番号 : 03-5321-3111
hsweb_inquiry@science.co.jp
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