2024.08.08
大学でのICT活用教育の方法とは?事例を交えて利活用方法を解説!
教育機関でのICT活用は活発になっています。特に、コロナ禍を経験することによってその動きは一層早くなりました。多くの大学ではすでにICTを活用した教育が進められていますが、更にどんな活用ができるのか、このブログでは大学でのICT活用の事例やポイントをご紹介します。
1.大学で進むICT利用
ICTとは
「ICT」とは「Information and Communication Technology」の頭文字を取ったものです。日本語にすると「情報通信技術」となります。情報通信の技術を活用して人々や物がつながることを指します。私たちは、インターネットやパソコン、スマートフォンを使って他の人とコミュニケーションを取っています。例えば、SNSで友達にメッセージを送ったり、Web会議のアプリでオンライン会議を行ったりしています。これらは、ICTを活用した具体的な例です。
以前から使われているのは「IT」(Information Technology)という言葉です。こちらは、コンピュータやインフラのことで、パソコンの解像度やHDD容量、インターネット速度など、コンピュータ自体の性能を指して使われることが多くあります。その後、インターネットが登場した頃にはなかったいろいろな技術が登場してきました。「IoT(Internet of Things)」、「DX(Digital transformation)」、「AI(Artificial Intelligence)」などです。こうした技術の進化によって「IT」がより適切な言葉として情報通信技術の意味を含めて「ICT」という言葉が使われるようになりました。
大学でICT利用が進む
大学でICT利用が進んでいる状況は、いくつかの調査結果から見ることができます。
・LMSの利用が進む
学習管理システム(Learning Management System: LMS)が多くの大学で活用されています。こちらの調査結果をご覧ください。
LMSの利用・運用状況について、「学習管理システム(LMS)を利用していますか?」という質問に対して、「全学で運用されているLMSを利用している」「部局で運用されているLMSを利用している」「個人教員が運用しているLMSを利用している」「していない」の選択肢に対して複数で回答を求めました。全学、部局、教員のいずれかでLMSを導入している割合は、大学事務局(4年制大学)では69.2%でした。高い割合でLMSの利用が進んでいることがわかります。
※「高等教育機関におけるICTの利活用に関する調査研究 結果報告書(第2版)令和2年7月」(AXIES 大学ICT推進協議会発行)より
>学習管理システム(LMS)とは?~基本機能から導入効果、おすすめシステムまで~
・ビデオ会議ツールの導入も進む
多くの大学で、オンライン授業の目的でZoomやTeamsなどが導入されています。ビデオ会議ツールの調査結果は次のようになっています。
オンライン授業の実施に伴って2020年度にビデオ会議サービス導入が行われました。そこで、2020年度調査では、「全学でビデオ会議サービスを契約し,導入・運用していますか?」と質問を行いました。その結果、89.1%の組織で全学的な導入を行っていることがわかりました。大学の規模別での導入率を表3に示します。規模は次のようになっています。
A群:10,001名以上
B群:5,001~10,000名
C群:3,001~5,000名
D群:1,001~3,000名
E群:1,000名以下
A〜D群ではすべて9割以上で導入されています。ほとんどの大学で導入されていることがわかります。
※「大学におけるICT環境の規模別導入状況の現状と経年変化」2021年(AXIES大学ICT推進協議会発行)より
・教務管理や学修支援、学生支援ツールの導入も進む
上記の報告書では、以下のようなICT環境でさまざまなツールが使われている、という調査結果も載せられています。
インフラに関するICT環境:「キャンパス内無線LAN」、「メールシステム」、「ウェブサイト管理システム」
教務管理に関するICT環境:「シラバスの公開」、「入学手続きシステム」、「履修管理システム」、「学生情報システム」
学修支援に関するICT環境:「講義収録システム」、「講義教材・ビデオの一般公開」、「電子教科書の作成・提供」
学生支援に関するICT環境:「入学予定者向けサービス」、「ヘルプデスクの設置」
こうしたツールが多くの大学で導入されていることからも、大学でICT活用が進んでいることがわかります。
2. 大学での教育へのICT活用方法
大学でICT活用が進んでいることがわかりました。では、実際に大学ではどのようにICTを教育に活用しているのでしょうか。その活用方法をご紹介します。
まずはeラーニング講座の提供についてです。大学が中心となって、特定のテーマに沿ったWebサイトを構築し、そこから情報を公開・発信している例を4つご紹介します。
・北海道大学オープンコースウェア
このWebサイトでは、大学の講義や公開講座の映像教材・講義資料などの、講義関連情報を一般公開しています。キーワード検索機能や、分野毎の一覧表示機能を使って、目的に合ったコンテンツを閲覧できます。自学自習はもちろん、教育の現場でも活用できます。
映像教材や講義資料の一般公開を通して、大学の知識や教育の魅力を国内外に広く発信して、インターネットを活用した新たな試みにも積極的に取り組んでいます。
・早稲田大学エクステンションセンター
早稲田大学エクステンションセンターは「Extension」(=拡張、開放)の意味するとおり、早稲田大学の研究・教育機能を広く社会に開放するための機関となっています。早稲田大学は、創立当初から校外生を対象にした「講義録」の刊行や、各地での「巡回講話」の開催などを通じて、生涯学習を進めてきました。エクステンションセンターは、この伝統を引き継ぎ1981年に発足しました。早稲田大学の教授や名誉教授をはじめ、第一線の学者や実務家の方々による公開講座を、学ぶ意欲のある全ての方々に提供しています。1988年には公開講座の総称を「早稲田大学オープンカレッジ」と改め、独自の単位制度を導入しました。また、2014年からは中野校(東京・中野区)を開校し、2校体制でさらなる生涯学習の充実に努めています。
・附属学校研究発表会(筑波大学)
筑波大学附属学校教育局はオンデマンド配信によって、附属学校の各校の研究や教育実践の内容を紹介しています。その成果を共有したり発信したりすることで、附属学校の教育研究活動の理解を深めていただくようにしています。また、今後の教育研究が一層充実したものとなるように、附属学校間や大学および関係機関との連携を強化しています。
・未来展望セミナー2020
大阪成蹊大学では、企業や団体の第一線で働く方や学生を対象に、世界の潮流を正しく見極めグローバルな競争を勝ち抜く知恵を身に付けていただくために、全8回にわたる公開講座「未来展望セミナー2020」を、2020年度より実施しています。
次に3つのICTを授業に取り入れた活用例をご紹介します。多くの大学ではさまざまな工夫を凝らして、ICTの技術を積極的に取り入れています。
・臨床薬学演習でオンライン教材とLMS(学習管理システム)を活用
某大学の臨床薬学演習に関する活用事例になります。この授業の中で調剤の実習を行いますが、1回の授業でマスターできるものではありませんし、また、学生全員が教員の手技を見られない場合があります。そこで、オンライン教材を事前に見て予習してもらい、その後講義で学び、不十分な部分は再度オンライン教材で学ぶ、という方法で確実な学習を目指しています。オンライン教材があれば、授業以外でも学生は何度も学習することができます。
このオンライン教材はLMSから配信しています。LMSを活用して、出席管理、資料配布、テスト、レポート提出、アンケート、成績管理などを行っています。単位認定に必要な情報を得るために、多くのLMSの機能を活用しています。LMSを使うことによって、学生たちがレポートの提出期限を守るようになったという変化がありました。以前は、先生が留守だったためにレポートを提出できなかったこともありましたが、LMSを利用すれば学生たちはいつでも提出することができます。また、LMSを使うと複数の教員が協力してレポートの評価も行うこともできるためとても効果的です。
実習を受けるためには薬学共用試験センター主導の全国統一OSCE試験に合格する必要がありますが、これまで3年間に不合格者は一人も出ていないそうです。動画教材での学習やLMSの活用が非常に効果的であると感じておられます。
・自分のPCやスマホでZoomに接続
某大学の多くの教室は縦長の教室となっているので、スクリーンが見やすいように教室の中程に天井吊り下げ型のサブモニタを設置しています。でも、サブモニタの大きさにも限界があるので、どうしても教室の後ろの方に座っている学生には黒板やスクリーンが見えにくいという問題がありました。この課題を、Zoomを活用することで解決できるのではないかと考えて、教職員と学生全員が利用できるライセンスを導入しました。現在、学生は自身のスマートフォンやPCを使ってZoomに接続することで、後ろの方に座った場合も、スクリーンに表示された資料を問題なく閲覧することができています。
MoodleとQueue-itを利用したオンライン試験(IBT)
某大学でQueue-it(Queue-it社が提供している待合室機能)を利用したオンライン試験(IBT: Internet Based Testing)を実施しました。
>MoodleとIBT~待合室機能を利用したオンライン試験の実施~
この大学では、コロナ前からMoodleを使ったオンライン学習管理システムを全校に導入して授業を行ってきましたが、期末テストは生徒に登校してもらい、校舎でテストを行っていました。大学内で時間をかけて検討し、オンラインでのテストを実施することになりました。その際、心配されたのが、多くの学生が一斉に試験を開始した際、システムにアクセスが集中して、つながりにくくなり時間通りに試験を開始できない学生が出てしまう、ということでした。それで、同時アクセス数を想定してMoodleのサーバーを用意しましたが、想定以上の利用がある場合を見越して、サーバーダウンを避けるためにこのQueue-itの待合室機能を利用しました。
アクセス数が上限を超えると、学生は待合室(待機画面)に誘導され、先着順でオンライン試験に案内されます。これによって、オンラインで初めて実施した期末試験は混乱なく終えることができました。「アクセスできない」とか「鯖落ち」とかいう状況は回避されました。試験後、実際のアクセス数や待ち時間などのログが取得できるので、大学側では利用状況を確認し、次の期末試験に備えています。
・4Kの高精細画像・映像で画面を共有
某大学には、学内に演習室があります。この演習室では、プログラミングの実習や実践的な技術の学習が行われていて、たくさんのパソコンが並んでおり、講義内容や講師からの情報を得ることができます。さらに、情報共有やグループワークにも活用しやすい環境が整っています。講師は自分のパソコン画面を学生たちとスムーズに共有できて、グループワークを促進することができています。
「ペアプログラミング」は、2人で一緒にプログラムを作る方法です。片方がキーボード入力やマウス操作を担当し、もう片方がアイデアを出したり、ミスを指摘したり、質問をしたりします。この方法を使うと、高品質なコードを書く技術を身につけたり、制作時間を短縮したりできます。また、授業中にペアを変えることで新しいアイデアを得て、クラス全体のスキルアップにもつながります。
この大学では、専用ハードウェアを使って画像を圧縮してリアルタイム配信を行っています。このハードウェアは4kの高精細画像に対応しており、CALL教室やアクティブラーニング教室、講義室などで使える画像転送システムです。圧縮配信により遅延が少なく、リアルタイムで情報を共有できます。
講師のパソコン画面を学生の隣に表示できるので、講師の作業を見ながら一緒にプログラミングを学べます。例えば、電子回路を制御する授業では、講師が回路の動作を見せながら、ソースコードを説明しています。この画像の配信システムによって、学生たちにとってわかりやすい授業が実現しています。
3. 大学教育へのICT活用のポイント
大学教育でICTを活用する上で役立つポイントを3つご紹介します。
ポイント1:わかりやすく使いやすいツールを選定し、運用サポートを確保する
ICTのツールとして、オンライン会議システムがあります。その代表的なツール「Zoom」は多くの人たちに使われています。先ほど、「自分のPCやスマホでZoomに接続」について紹介しましたが、Zoomの導入の際にほとんど使い方を説明する必要がなかったそうです。操作を説明するためにマニュアルを準備することや、問い合わせサポートがどれだけ負担になるかなどはツール選定のための大切な要素です。
もうひとつICTのツールとしてよく使われているのはLMS(学習管理システム)です。日本国内の大学で一番多く利用されているLMSは「Moodle」です。Moodleはオープンソースソフトウェアなので、特定のベンダーに依存する必要がない、という大きなメリットがあります。特定のベンダーの製品を利用すると、そのベンダーを変えたい場合やその製品のサポートが中止される場合、新しいLMSを探してすべて新規で作り直す必要が生じます。ですが、Moodleの場合は、現在利用している状態のまま別のベンダーに運用サポートを依頼することができます。
ポイント2:学生の意欲を高める
学生の学習意欲を高めるため、どのようにICT活用を活用できるでしょうか。「学習意欲」とは、学習をする際に自分からやる気や興味を持つことを指します。学習意欲は、内発的な動機(自分からやりたいと思う動機)と外発的な動機(他からの要因で動機づけられる動機)に分けられます。
例えば、必修科目で単位を取らなければ落第してしまう場合、外発的な要因(単位を取るための義務)が動機付けになります。でも、これはやらなくてはならないことであって、学生が本当にやりたいと思っていることではありません。
学習意欲を高めるためには、ARCSモデルという考え方が役立ちます。ARCSモデルは、学習者の注意(Attention)、関連性(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)が重要だと言っています。これらの要素を活用することで、学習意欲を向上させることを期待できます。ICTを使って、学習者の興味を引き出し、学習の意義を伝え、自信をつけさせ、満足感を感じさせる工夫をすることです。
・注意(Attention)
学習者の興味を引き出すために、面白いと思える要素を取り入れましょう。退屈な内容を避け、学習者に「これは面白そうだな」と感じさせることが大切です。
・関連性(Relevance)
学習の目標や課題が学習者にとって関連性のあるものであることが重要です。学習者が自分の成長や目標に向かって積極的に取り組めるようにしましょう。
・自信(Confidence)
学習者に成功体験を積ませ、自信を持たせましょう。成功したことが自分の努力によるものだと感じられる教材を選び、「やればできる」と思わせることが大切です。
・満足感(Satisfaction)
学習の成果を無駄にしないようにしましょう。目標を達成した学習者を褒めて認め、公平な評価を行い、「やってよかったなぁ」と思わせることが目的です
ポイント3:ICTはあくまで道具であることを認識する
ICTは、教育現場で使われるツールです。でも、その効果を最大限に引き出すためには、教員の指導技術が大切です。教員はICTを使うとき、次のことを考慮する必要があります。
・教材の選定と活用
教材とは、授業で使う教科書やプリントやオンラインの資料などのことです。ICTを使うとき、教員はどんな教材を選ぶかが大切です。学習目標に合った教材を選び、生徒が興味を持てるように工夫します。
・授業計画とデザイン
授業計画は、授業の流れや内容を考えることです。ICTを使った授業をするとき、教員は学習者のニーズや学習スタイルを考慮しなければなりません。どのタイミングでICTを使うか、どんな方法で使うかを設計します。
・学習者のサポート
ICTを使った学習環境では、生徒がICTを適切に使えるようにサポートする役割があります。教員は生徒にICTの使い方を教え、質問に答えてサポートします。
・評価とフィードバック
ICTを使った課題や評価をするとき、教員は公平で適切な評価を行います。また、生徒にフィードバックを提供して、学習の質を向上させます。
ICTは教育現場で役立つツールですが、教員の指導技術が効果的な活用に欠かせない要素である、ということを認識していることは大切です。
4. まとめ
教育機関でのICT活用が進められていますが、ICTを活用するだけで教育の質が向上するわけではありません。どんな場面で、どのように使うか、それによってどんな効果を期待できるか十分な検討が必要になってきます。知識欲旺盛な子供たちや若者たちは、すでにICTを使いこなしてたくさんの知識を得て、新しいものを生み出しています。そうした流れは今後も更に加速していくでしょう。このブログが、現在すでにICTを活用して教育現場で活躍しておられる皆さまの助けになることを願っています。
株式会社ヒューマンサイエンスでは、教育機関または企業でのICT活用を全面的にバックアップしています。教材制作からLMSの導入や運用までを一気通貫でご支援しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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